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令和8年度「とうきょう すくわくプログラム」報告書

3歳児(さくら組)

〈3歳児〉すくわくプログラム報告書 7月

2026-07-31
1.活動のテーマ
<テーマ>
音(段ボールの音)

<テーマの設定理由>
4月のテラスで風や空の音に気づき、5月の遠足で音の源を探し、6月には雨のしずくを受け止めてバケツに耳を傾けた子どもたち。「ぽつぽつ」「さーさー」と言葉が生まれ、体で雨の動きを表現する姿も見られました。
 7月、保育室に届いた段ボール箱を見た子どもが「あそびたい」とつぶやきました。今度の音の舞台は、雨でも水でもなく、身近な「段ボール」です。
 叩く・触れる・聴き比べる。素材そのものから音を探そうとするこの姿は、4月から積み重ねてきた「音への問い」がさらに広がろうとしているサインでした。7月のテーマは、「音を比べる・言葉にする・共有する」という探究の深まりを、身近な素材を通してさらに育てることを意図して設定しました。
2.活動スケジュール
活動内容 時間20分/3回 人数 数人
・昨日の帰りに大小の段ボール箱を見つけた子どもが「あそびたい」と保育士に伝える
・大・中・小の段ボール箱をそのまま部屋に設置する
・子どもが「ぽん」と一回叩き始めると、周りの子どもが笑顔で集まってくる
・部屋中に叩く音が広がり、保育士の「おひっこし」の声で違う箱へ移動して叩く
・隣り合う箱を叩き比べ、音の違いに気づく姿が見られる
・段ボール素材の凸凹シートを指でなぞり、感触と音を確かめる
3.環境をデザインする
【環境】
前日の帰りに子どもが段ボール箱「見つけた」ことを活動のスタートとして活かした。「あそびたい」という気持ちが生まれた翌日に、ゆとりをもって時間を設定することで、子どもの内側から動き出す探究の場をつくった。

【人的環境】
保育士はまず箱のままで「どうする?」と問いかけ、子どもが自分で動き出すのを待った。一人が叩き始めた動きを受け止め、「おひっこし」という言葉で隣の箱へ誘うことで、自然な形で音の比較へとつながるよう促した。段ボールの断面の凹凸を指でなぞる姿には「どんな音が聞こえるの?」と静かに問いかけ、感覚を言葉にする時間を丁寧に作った。
 
【物的環境】
大・中・小の段ボール箱を箱のまま部屋に並べて置いた。潰さず・切らず、素材そのままの形を保つことで、「叩く・触れる・比べる」という関わりが自然に生まれるよう意図した。また、段ボール素材の凸凹シートも合わせて用意し、叩く以外の「触れる」という関わりを促した。
・大・中・小の段ボール箱(音の違いを感じ比べるための素材)
・段ボール素材の凸凹シート(触れる・指でなぞる動作から音を探す素材)

【活動的環境】
前日の帰りに子どもが段ボール箱を「見つけた」ことを活動のスタートとして活かした。「あそびたい」という気持ちが生まれた翌日に、ゆとりをもって時間を設定することで、子どもの内側から動き出す探究の場をつくった。
大きさの違う段ボール
4.探究活動の実践
「ぽん」― 叩くことから始まった音の探究
▶ 子どもたちの姿
大・中・小の段ボール箱が部屋に届いた。保育士が「どうする?」と聞くと、一人の子がそっと手を伸ばし「ぽん」と叩いた。その瞬間、周りにいた子どもたちの顔が笑顔になり、顔を見合わせながら次々と叩き始めた。やがて部屋中に叩く音が響き渡った。
 保育士が「おひっこし!」と声をかけると、子どもたちは笑いながら隣の箱へ移動し、また叩き始めた。一つの箱から次の箱へと移るうちに、「あれ、音がちがう」という気づきが生まれてきた。
▶ 子どもの気づき
最初の「ぽん」という一音が、クラス全体の探究に広がっていった。箱を叩く楽しさから始まり、「移動して叩き比べる」という行動の中で、音の違いを自分の耳で感じ始めていた。一人の小さな動きが、クラス全体の遊びへと広がっていく自然な流れがあった。
▶ 保育士の関わり
最初は「どうする?」と問いかけ、子どもが自分で動き出すのを待った。一人が叩き始めると、すぐに「こうするんだよ」と教えるのではなく、その動きを全体に広げていく「おひっこし」という言葉を使い、子ども自身が箱の違いに気づける流れをつくった。
 
「音がちがうよ」
▶ 子どもたちの姿
2つの段ボール箱を使いながら交互に叩き、「音がちがうよ」と言った。大きい箱と小さい箱、それぞれの音を自分の手で確かめながら比べていた。その言葉を聞いた周りの子どもたちも、自分の箱を叩きながら耳を澄ます姿が見られた。
▶ 子どもの気づき
「音がちがう」という言葉は、単に叩いて楽しむ段階から、「聴いて比べる」探究への深まりを表していた。6月にバケツの水の変化を何度も確かめに行った姿と同じように、今度は素材の違いを耳で確かめようとしていた。
▶ 保育士の関わり
「音がちがうよ」という言葉を受け止め、周りの子どもたちに共有した。「ほんとだ、どっちが大きい音?」と問い返すことで、クラス全体が耳を傾ける場をつくった。
 
「ぽこぽこっいってる」
▶ 子どもたちの姿
段ボール断面の凸凹を見つけ、指で上から下へゆっくりなぞり始めた。叩くのではなく、指先で表面の凸凹を感じながらじっと動かしていた。「どんな音が聞こえるの?」と問いかけると、「ぽこぽこっいってる」と答えた。指の動きと音が一体になった瞬間だった。
▶ 子どもの気づき
「叩く」ではなく「なぞる」という新しい関わり方で音を探した。「ぽこぽこっいってる」という言葉は、指が感じた凸凹の感覚と耳に届く音がひとつになった表現だった。6月のはじき絵で「さーさー、あめのおとだよ」と口ずさんだ姿と重なるように、今回も感覚・動き・言葉が一つにつながっていた。
▶ 保育士の関わり
指でなぞる動きを見逃さず、「どんな音が聞こえるの?」と静かに問いかけた。「ぽこぽこっいってる」という言葉を繰り返し受け止め、「そうか、ぽこぽこなんだね」と共感した。その言葉をクラス全体にも広げ、他の子どもたちも指でなぞる動きを試し始める場をつくった。
 
「もっとやりたい」
▶ 子どもたちの姿
段ボールを叩きながら、自然と歌を口ずさみ始めた。慣れてくると、いくつか並べてある箱を体を動かしながらリズミカルに叩くようになった。叩く→歌う→動く、という一連の流れが生まれ、体全体で音を楽しんでいた。
▶ 子どもの気づき
音を「聴く・比べる」だけでなく、「体で表現する」という段階へと広がった。歌とリズムが自然に結びついていくとあの姿は、6月の「さーさー」という口ずさみと同じように、音の体験が身体表現と一体になっていることを感じさせた。
▶ 保育士の関わり
歌い始めた瞬間を見守り、止めずにリズムの広がりを受け止めた。周りの子どもたちにも「とあちゃん、なんかやってるよ」と自然な形で共有し、一人の表現がクラス全体の遊びへ広がるきっかけをつくる。

ピアノを弾く見立て遊び
▶ 子どもたちの姿
段ボール箱から出される音と自分たちの身体表現(体を揺らす、声を出す)が一つになっていく喜びを感じている
友だちとの関わりの中で、音を媒介にした「対話」が生まれている
やりとりを通じて、音が「つながり」であることに気づき始めている
子どもの気づき
段ボール箱を横にして両手でピアノを弾く真似をしながら、体を揺らして鼻歌のような声を出していた
「弾く」という見立てと音が一体になった、えなならではの表現だった
友だちと顔を見合わせながら叩くと、相手も真似て叩き返す
目と目が合って、音でやりとりする瞬間が生まれた
▶ 保育士の関わり
「ピアノ」という見立てを受け取り、「どんな曲を弾いてるの?」と問いかけた。周囲にも伝わるように言葉をかける。「とんとんとん」「1、2、3」という声かけをすると、子どもたちも自分の体で音を感じ、「このうたにして」など歌を口ずさみながら体を使った表現を楽しめるような関りをする。
5.活動の様子が分かる写真
「とんとん叩いてみよう」
色んな箱を叩いて音の大きさを楽しみ始めました。
箱を叩き比べてみると「音がちがうよ」
ピアノに見立てて、指で叩きながら体を揺らし、口ずさんでいます。
「ぼこぼこいってる」
6.振り返り
 6月に「雨の音を聴く→言葉にする→確かめる」という循環を重ねてきた子どもたちは、7月に「音を自分で作る」という新しい探究へと踏み出した。きっかけは、保育室に届いた大中小の段ボール箱という偶然の素材だった。「これで遊びたい」という問いから始まった遊びは、見立て・比べる・感じる・表現するという多層の探究へと広がっていった。
 最初に一人が「ぽん」と叩いた瞬間、部屋の空気がほどけるように笑顔が広がった。音はすぐにクラス全体のものになり、「おひっこし」という言葉で箱を移動するたびに、子どもたちは耳を傾け、何かが違うことを感じ始めた。「音がちがうよ」という言葉は、その感覚に名前をつけた瞬間だった。叩いて聴くだけでなく、比べて確かめるという探究の深まりが、一言に凝縮されていた。
段ボールの断面の凸凹シートを見つけ、指でなぞりながら「ぽこぽこっいってる」と言ったとき、「叩く」という枠を超えた新しい関わり方で音を見つけていることに気づいた。6月のはじき絵で「さーさー、あめのおとだよ」と口ずさんだ姿と同じように、指先の感覚・手の動き・言葉がひとつになる瞬間がここにもあった。
 4月から積み重ねてきた「音を探す・言葉にする・共有する」という循環が、段ボールという素材の中でも確かに動いていた。子どもたちの耳はこれからも、身の回りの様々な素材や場面で音を探してきています。「ぽこぽこ」「ぽつぽつ」「さーさー」という言葉の記憶が、今後どのように広がっていくか、引き続き丁寧に見守り、「好奇心―探究―ふりかえり」の循環を大切にしながら、子どもたち自身が見つけた音の世界を、一緒に広げていきたいと思います。
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