2歳児(たんぽぽ組)
〈2歳児〉すくわくプログラム報告書 7月
2026-07-31
1.活動のテーマ
<テーマ>
音
<テーマの設定理由>
7月、子どもたちの前に新しい世界が立ち上がり始めました。
それは「音を、聞く」という経験を通じて起こりました。
梅雨から初夏へと季節が深まる中で、子どもたちが立ち止まったのは、「ペットボトルから流れる水は、どんな音がするのか」「自分で叩いた楽器は、どんな音を出すのか」という、身近な素材との出会いでした。
6月までの「聞こえた音に気づく」という受動的な経験から、7月は「自分で試し、繰り返し、確かめる」という能動的な探究へ向かい始めたのです。
水が落ちる音、楽器から生まれる音、保育者と一緒に作る音——その一つひとつは、子どもたちにとって「何度も試したくなる」「誰かに聞かせたくなる」ほどの興味へと高まっていました。
こうした関心の広がりは、決して「音遊びをしよう」という大人の企画から始まったのではなく、子どもたちが日常の中で「これ、どんな音?」という問いを繰り返す中から、自然に立ち上がってきたテーマなのです。
2.活動スケジュール
- 7月初旬:園内での「聞く環境」の整備——衝立を使った音当てゲーム、保育者の「聞く姿勢」の示範
- 7月中旬:手作りマラカスの製作と、自分で作った楽器を鳴らし続ける喜び
- 7月中旬~後半:ピアノのリズムに合わせた表現遊び——音の強弱を身体で表現する経験
- 7月中~後半:水と音の出会い——ペットボトルやビニール袋から聞こえる色々な音、繰り返しながら確かめる過程
- 7月後半:経験の振り返りと共有——自分たちが聞いた音、作った音、確かめたことを、友達と一緒に思い出す
3.環境をデザインする
【環境】
子どもたちが「聞く」ことに集中できるようにするために、保育者は、まず園内にどのような「場」を作るかを考え始めました。
それが「衝立を使った、静かな空間」でした。
ホールの片隅に衝立を置く。音源が見えないようにする。保育者がゆっくりと、丁寧に音を出す。子どもたちは、見えない音の正体を、耳だけを使って当てていく——その環境そのものが、「今、大事なことが起きている」というメッセージを子どもたちに伝えていたのです。
さらに大切だったのは、保育者の「聞く姿勢」でした。耳に手を当てて「聞こう」と仕草を示すだけで、子どもたちは、その仕草を真似し、おしゃべりをやめ、集中し始めました。それは、子どもたちが「この時間は何かを聞く時間なんだ」という認識を、身体で理解した瞬間でもありました。
【人的環境】
この月の関わりで重要だったのは、保育者が「教える人」ではなく、「一緒に試す人」「聞く姿勢を示す人」「子どもの気づきを受け止める人」であったことです。
ピアノの音に合わせて手作りマラカスを鳴らす時、保育者も一緒にマラカスを手に取り、「小さな音はこんな感じ」「大きな音はこんな感じ」と、言葉と身体で示していました。
保育者のその姿が、子どもたちに「自分たちも、試していい。自分たちで工夫していい」というメッセージを届けていたのです。
【物的環境】
準備された素材は、シンプルでした。
ハンドベル、大きさの違う段ボール、グラス、ビン、ペットボトル、ビニール袋、手作りマラカス、ピアノ。
どれも、「音が出る」という以上に、「子どもたちが何度も試したくなる」ものばかりでした。
特に、ペットボトルやビニール袋といった、園内に見慣れた素材を用いたことが重要でした。子どもたちは「このペットボトル、音が出るんだ」という驚きの中で、身近な環境を「捉え直す」経験をしていたのです。
衝立、水分補給のための飲料、水を用意し、安全で快適な環境を整えることで、子どもたちが「聞くことに集中する」ことが可能になっていました。
【活動環境】
計画では「音当てゲーム→マラカス遊び→水遊び」という流れが想定されていましたが、実際には、子どもたちの「もう一回」「こっちはどんな音かな?」という問いが、その計画を柔軟に変えていきました。
予定時間を超えても、子どもたちが繰り返し試している間は、その時間を守る。
天候や子どもたちの体調を見ながら、活動の内容や順序を調整する。
保育者たちは、子どもたちの「聞きたい」「試したい」という関心を、計画より優先させていたのです。
・ハンドベル・空箱・すりこぎ棒・ラップの芯・ガラスの瓶・マドラー
・手作り楽器(マラカス・鈴)・タンバリン・カラーボール
4.探究活動の実践
4.探究活動の実践
◆ 衝立の向こうから聞こえる音——「聞く」という姿勢の発見
ホールが、いつもと違う空気を持ち始めました。
衝立が立てられ、その向こう側が見えないようにしてありました。子どもたちは「何が始まるのかな?」という期待感を感じながら、前に座りました。
保育者が、ゆっくりと耳に手を当てました。
その仕草を見た瞬間、子どもたちも同じように耳に手を当て始めました。
おしゃべりはやみました。教室は静かになりました。
衝立の向こうから、音が聞こえてきました。
「シーン、シーン」——ハンドベルの澄んだ音。
「ドン」——大きな段ボールを叩く低い音。
「パコパコ」——小さな段ボールを叩く高い音。
子どもたちの顔が、真剣になっていました。
目を大きく開き、音の方に首をかしげ、「これ、なに?」という表情で聞き入っていました。
▶ 子どもの気づき
子どもたちは、「同じ段ボールなのに、大きさで音が違う」ことに気づき始めました。
「大きいね」「ちっちゃい音だ」——聞こえたそのままを、子どもたちは言葉にし始めたのです。
2歳児にとって、「音の違いを言葉で表現する」ことは、決して簡単ではありません。
しかし、この時、子どもたちは「聞いた」という経験から、その経験を「言葉にしたい」という衝動に駆られていました。
さらに重要だったのは、保育者が示した「耳に手を当てる仕草」を、子どもたちが自然に真似たことです。
それは、子どもたちが「今は、音に集中する時間」という認識を、身体で理解し始めたことを示していました。
自分たちで「聞く姿勢」を取ることで、子どもたちは、「聞く」という行為そのものを主体的に始めたのです。
▶ 保育者の関わり
保育者たちは、単に「音が違うでしょう」と説明するのではなく、叩く強さや高低が伝わるように工夫しながら、一つひとつの音に「どんな音がしたかな?」「大きいね」「きれいな音だね」と、丁寧に言葉を添えていました。
その言語化が、子どもたちの「聞いた」という経験を、「感じたことを言葉にしてみる」という体験へと変わらせていたのです。
さらに重要だったのは、保育者自身が「聞く」という姿勢を示したことでした。
耳に手を当てるという仕草は、「今、大事なことが起きている」「その大事なことに集中しよう」というメッセージを、子どもたちの身体に届けていました。
その環境と姿勢の中で、子どもたちは、自分たちの内側に「聞く力」を感じ始めたのです。
◆ マラカスから生まれる音——「自分で作る」喜びの発見
手作りのマラカスが、子どもたちの手に渡りました。
不透明なペットボトルの中に、ビーズが入っています。
子どもたちが、その中身を見ることはできません。
しかし、振ると、「シャカシャカ」という音が生まれます。
その瞬間、子どもたちの顔が変わりました。
「私が作ったマラカス」「僕の音」——その認識が、子どもたちの関心を一気に高めていたのです。
▶ 子どもの気づき
子どもたちは、自分たちで作ったマラカスを、何度も何度も鳴らし始めました。
「もう一回」「もう一回」——その繰り返しの中に、単なる「遊び」ではなく、「確かめたい」という関心が見えていました。
ピアノの音が流れ始めると、保育者が「小さな音はどんな音かな?」と聞きました。
その問いに応えるように、子どもたちは、マラカスを優しく細かく振り始めました。
「どんな音がしたかな?」「それで、大きな音はどんな音かな?」——保育者の問いに応じるたびに、子どもたちの身体は動き、マラカスの振り方が変わり、出てくる音が変わっていきました。
その過程で、子どもたちは、「自分の身体の動きが、音を作っている」ということに気づき始めたのです。
歌の最後、ピアノの連打に合わせて、子どもたちはマラカスをたくさん振りました。
その時の子どもたちの表情には、「自分たちが、この音を作っている」という実感と、その喜びが満ちていました。
▶ 保育者の関わり
保育者たちは、子どもたちと一緒にマラカスを手に取り、「小さな音」「大きな音」と、身体を使って示していました。
教えるのではなく、一緒に試す——その姿が、子どもたちに「自分たちも、工夫していい。自分たちで試していい」というメッセージを届けていたのです。
また、ピアノというシンプルな「手がかり」を使いながら、子どもたちの身体表現を引き出していました。
その結果、子どもたちは、音の「強弱」を、自分たちの身体を通じて、感じ始めていたのです。
◆ ペットボトルから流れる水——「繰り返す」ことの中に生まれる発見
夏の日差しの中で、別の場面が始まりました。
ペットボトルから、水が流れ落ちます。
その水の音を聞きながら、子どもたちは何かに気づき始めました。
「ジャージャー」——聞こえた音を、言葉で表現する子どもが現れました。
その言葉に応えるように、別の子どもが「もう一回」とつぶやきました。
▶ 子どもの気づき
子どもたちは、「もう一回」「こっちはどんな音かな?」と繰り返し始めました。
一度の経験では足りず、何度も何度も水を流し、その音を聞き、そのたびに新しい発見をしようとしていました。
ペットボトルの角度を変えると、水の流れ方が変わり、音が変わります。
水の量を変えると、音が変わります。
その「変わり方」を、子どもたちは身体と耳で感じていました。
気づきと言葉はまだ完全には結びついていませんでしたが、子どもたちが新しい音に出会うたびに、目を丸くしたり、ジャンプしたり、表情や仕草で驚きと喜びを表していました。
その表現の中に、「これ、何なんだろう」「面白い、もう一回」という問いが、ぎっしりと詰まっていたのです。
ペットボトルだけでなく、ビニール袋を水に浮かべると、また違う音が聞こえます。
子どもたちは「あ、音が違う」という発見の中で、立ち止まり、何度も試し、友達に「聞いて」と呼びかけていました。
▶ 保育者の関わり
保育者が「どんな音がするかな?」と耳を澄ます仕草を示すと、ペットボトルから出る水の様子をじっと見ながら、音のようす、その変化に興味を示していた子どもたち。
その子どもたちの視線を、保育者たちは丁寧に受け止めていました。
「どんな音がした?」「こっちはどんな音がしたかな?」——保育者の言葉掛けが、子どもたちの「試したい」という関心を、さらに広げ、深めていったのです。
同時に、保育者たちは、子どもたちの体調を確認し、水分補給をすすめながら、安全に水遊びを楽しめるように配慮していました。
その、細やかな配慮の中で、子どもたちは、心地よく、夏の「音の世界」を探究することができていたのです。
◆ 経験の共有——「聞いた音」「作った音」が「みんなの物語」へ
活動の終わりに、子どもたちは、自分たちが聞いた音、作った音を、写真と一緒に思い出し始めました。
「ジャージャー、聞こえた」「シャカシャカ、好きだった」「大きい音、ドン」——一つひとつの経験が、言葉になり、友達と共有されていきました。
その共有の中で、子どもたちは、「あ、この子も同じ音を聞いてたんだ」「でも、この子は違う言葉で言ってる」という気づきが生まれていました。
個人の経験が、友達との対話の中で、「みんなの物語」へと変わっていく——その過程で、子どもたちの「聞いた」という経験は、さらに確かで、より豊かなものへと開いていたのです。
5.活動の様子が分かる写真
「どんな音がするかな?」振る、鳴らす動きを楽しみながら音の違いを味わいました。
「しーっ…鈴の音聞こえるかな?」音を聞きながらリズム遊び。
「すくって、触って」水から聞こえる音って、どんな音?
耳を澄ませて、水の音に夢中!
「ポツポツ、ザーザー」雨音にじっと耳を傾ける子どもたち。
6.振り返り
7月は、さまざまな「音」と出会う活動を通して、子ども達が音に興味を持ち、自分から聞いたり。試したりする姿がたくさん見られました。活動の始めは、保育士が音を鳴らす様子に耳を傾けたり、真似をしたりする姿が中心でしたが、次第に「もう一回」「やってみたい」と自分から音を鳴らして確かめようとする姿へと変わっていきました。タンバリンや鈴、ベル、マラカス、手作り楽器、段ボールなど、さまざまな素材に触れる中で、「音が違うね」「大きい音だね」と音の大きさや響きの違いを感じながら、何度も繰り返し楽しむ姿が見られました。また、水遊びでは、水を流したり容器に移したりする中で、水の音や、音の変化にも興味を示し、耳を澄ませたり、音が変わる様子をじっと見つめたりする姿が見られました。言葉で気持ちを表現することが難しい子どももいましたが、目を輝かせたり、笑顔になったり、何度も試そうとする姿や表情から「聞いてみたい」「もう一度やってみたい」という思いが伝わってきました。保育士は、一人ひとりの表情や仕草を丁寧に受け止め、その思いに寄り添いながら活動を進めました。活動の中では、友達と一緒に音を聞いたり、同じ楽器を鳴らしたりすることで、音を共有する楽しさも感じられるようになりました。音への興味は、繰り返し試す中で少しずつ深まり、自分なりの発見へと繋がっていきました。今回の活動を通して、保育士が計画を進めるだけでなく、子ども達の「やってみたい」という気持ちに合わせて活動を柔軟に広げていくことの大切さを改めて感じました。今後も、一人ひとりの小さな気付きや表情を大切に受け止めながら、身近な音との出会いや発見を楽しみ、子どもたちの興味が次の探求へとつながるような環境づくりを大切にしていきたいと思います。
